1年ぶりの参加となるレトロゲーム系イベント「ゲームレジェンド30」でアーケード筐体の展示を行ないました。(過去の参加報告は、こちら。)
今回は1988年の「NARC(ナーク)」(Williams Electronics Games)アップライト筐体を設置しました。
日本では、ほとんど知られていないゲームですが海外では人気が高く、アーケードから始まって、NES(ファミコン)、コモドール64、Amigaなどの家庭用マシンにも移植され、液晶(LCD)ゲームにもなっています。
ごく少数は日本国内にも輸入され、タイトーが販売を検討していたようですが結局広く国内発売されることはありませんでした。というのも、バイオレンス色が強く国によっては販売が差し止めになるような過激な内容であること、筐体の大きさやシステムの価格など懸念される要素が多すぎだったのです…。
プロジェクトNARCと呼ばれる組織に任命されたMax Force と Hit Manと呼ばれる麻薬捜査官になり、地下麻薬密売とテロ組織のボスであるMr.ビッグを逮捕することがゲームの目的です。行く手には、麻薬中毒者(ジャンキー)、麻薬の売人、番犬などが襲ってくるため、応戦しながらボスのいる場所まで進まなければなりません。
銃を撃ちながら横に進んで行くサイドビューアクションで、「かがむ」「ジャンプ」「マシンガン」「ロケットランチャー」という4つのボタンを駆使して戦います。このプレイヤー、麻薬捜査官なのであくまでも悪い奴らを逮捕することが目的なのです…が、敵はすでにジャンキーや売人という凶悪犯なので撃ち殺しても構わないという理由で正義の弾丸をガンガン撃ち込みます…。一応、敵と接触して一定時間が経つと「逮捕」をすることができますが、大量の敵に囲まれてしまうことが多いため、どうしても撃ち殺す必要が出てきます。(ステージクリア時に支給されるボーナスは「逮捕」した数に応じて高くなるので、高得点を得るためには「逮捕」がカギにはなります。)
ゲームのシステム的には、それまでアメリカで人気が高かった、「ダブルドラゴン」「魂斗羅」といったゲームの要素を入れた進化系と言えるものでしたが、予想の上を行く破壊と殺戮のオンパレードで何が正義だかわからなくなるスーパーバイオレンスアクションゲーム、それが「NARC」なのです。
このゲームは、アメリカのウイリアムズ社(Williams Electronics Games)によって開発されたものですが、この時代は多くのゲームが日本製でキャラクターや背景など、ゲームの絵作りは人が1つ1つの点を描く「ドット絵」と呼ばれる職人技で作られていました。それに対して「NARC」では、ほぼすべての画像がデジタイズ(Digitized Sprites)技術によって作られています。これは、実際の人やモデルをカメラで撮影した映像をコンピューターに取り込んで使用するというもので、この技術を広範囲に使用した最初期のゲームだと思われます。
「ローリングサンダー」「魂斗羅」など、人を銃撃して倒すゲームはそれまでもありましたが、ドット絵として描かれた記号的な表現に留まっていました。ところが、「NARC」では高解像度でリアルな等身の実写映像を次々に撃ち殺し、ロケットランチャーでは人の手足が吹き飛んで散らばるなど、衝撃的な表現が随所に見られます。これが、「NARC」が支持された理由でもあり、新しい時代を切り開いた点と言えます。その後、アメリカでは実写を使ったゲームとして「ピットファイター」「モータルコンバット」などのヒット作が生まれますが、その分野を開拓した歴史的ゲームではないかと思います。
ドラッグとバイオレンスという、まさにアメリカらしい内容ですが、恐ろしいことに「NARC」は、アメリカのアミューズメントマシン協会(AAMA)がFBIと協力して行った麻薬撲滅キャンペーン「Winners Don’t Use Drugs」スローガンの先鞭を切ったゲームで、アメリカ政府が認める麻薬撲滅ゲームとなっています。まさにドラッグの危険を伝えるドラッグ級のゲームなのです。
あ、人はいくら撃っても問題ないですが、登場する犬は撃っても子犬になるだけで死にません。このあたりも動物愛護に溢れた(?)アメリカらしい点です。
「NARC」は、1988年にアメリカのAMOA Expo(アーケードゲームの見本市)で発表され、翌1989年初旬に出荷が開始されました。古くからピンボールを製造している老舗メーカーであるウイリアムズ社(Williams Electronics Games)が、1987年にWMS Industriesというグループの1部門となってから発売する初めてのビデオゲームということで、非常に力の入ったものに仕上がっています。
もともとピンボールの技術者として仕事をしていたEugene Jarvis氏が開発した、「Defender」「Robotron: 2084」といったビデオゲームをウイリアムズ社が発売し、80年代前半に大ヒットとなった経緯があったのですが、1984年以降はピンボール中心の製造に戻っていきました。
「Defender」「Robotron: 2084」は、日本のビデオゲームにはない刺激的な表現、爽快感が支持されていました。その開発の中心となっていたEugene Jarvis氏が再びビデオゲームに戻ってきて、製作を指揮したのが「NARC」でした。結果、アメリカンなビデオゲームの進化系とも言うべきスタイルが完成したのです。(Eugene Jarvis氏はその後「Smash T.V.」「Cruis’n USA」などの作品に関わった後、Raw Thrills社を設立し現在もアーケードゲームを手掛けています。)
ハードウェアも非常に洗練されていて、世界初のグラフィック統合チップTMS34010を最初に採用したアーケードゲームとなっています。このチップは、32bitのCPUとGPUを統合したもので、32bitCPUの採用としてもアーケード最初期のものになります。(詳しくは、「基板大好きNARC編」をご覧ください。)
実写を取り込んだイメージを格納するため、大量のROMを搭載したシステムはWilliams Z-Unitと呼ばれており、筐体を開けて出てくる基板のサイズに圧倒されます。
今回は、アーケードのキャビネットだけでなくゲームセンターのジオラマに、ミニチュアのNARCキャビネットをセットして展示していました。オリジナルで製作されたもので、こちらも要注目です。
最後に、当日のハイスコアを掲載しておきます。
実は、2人の協力プレイでゲームのラスボスまで到達し、イベント閉会の直前にクリアするという偉業が達成されました。ギャラリーからも拍手が沸き起こり、盛大なフィナーレとなりました。
ブースにお越し頂いた皆様、本当にありがとうございました。今後また機会があれば、展示を行なっていきたいと思います。
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